なぜブルーベリー

 千葉でブルーベリーの農園を作ろうとぼんやり思ったのはいつのころだったのだろう。

ブルーベリー
ブルーベリーに初めて接したのは、今から30年以上前のこと。仕事でローマのホテルに泊まったときだと思う。ホテルの朝食で食べなれた苺やマーマレードではない濃い紫色のジャムに出くわし、そのうまさと珍しさに強く異国の豊かさを感じた。仕事柄海外の各地のホテルに泊まるたびに朝食が楽しみだったことを覚えている。
 その一方で、家内と結婚して比較的早い時期に園芸が共通の趣味となり、いろいろな草花を育て始めたが、なぜかブルーベリーには強い興味を抱かなかったのが不思議でならない。少しのあいだ鉢植えで育ててはいたのだが、花中心の二人には、果樹の世界はやや違うものがあったのかもしれない。

農園
 外房大原に父が残した農地と農家があった。父が丁度今の私の年齢のころ、ちょっとした「楽園づくり」を思い立ち10年以上独居した土地である。その後父は84歳で他界したが、土地家屋はそのままにしており、年に数回私が家に風を入れに行く程度の管理で、事実上は放置されたままと言ってよい状態であった。ただ父と親交のあった地元の方(草刈等の管理をお願いしていた。)が、折りにふれ「いつこちらで生活するのか」と閉口するほど問われ続け、そのたびに「定年になったら」と答え続けてきたことはやはり胸に刻まれた。この方ももうおいでにならない。

きっかけ
 父は最初の孫になる私の長女をたいへん可愛がり、まだ少女ともいえない子供のころから、よく夷隅へつれてきてあそばせた。長女にとってもこの土地は杉並の自宅より気に入ったところとなっていたようで、特に大学時代はサークルの仲間とよく合宿かコンパかわからないような会合の場所に使っていた。彼女が就職してからのち体を壊し、就業はもとより結婚も困難となったことが、私の後の身の振り方に大きく影響したのは事実だ。私にとっては、自分たち夫婦の老後より私のいなくなった後の娘の生活手段の確立がどうしても必要だった。

統合
 新世紀の年、就職した会社の役員から沖縄にあるホテルの社長に転出した時期、サラリーマン生活の終わりを意識するようになった。気のあった同僚や後輩たちと退任後の生き方について話し合うことが多くなり、なんとなく「夷隅の土地を利用して何かできないか」と言う話が良く出た。「ダチョウが良い。」「鶏よりホロホロチョウだ。」「精神道場!」「ハンデを持った子供たちの農園(これは父親の夢)」等々。そんななかでふと思いついたのが「ブルーベリー」だった。まず第一に「自分の好きな分野」だと言うこと。そして稲作や野菜類は細かい世話が大変だろうから年老いていく私や病気の娘には荷が重かろうと思うこと。まして動物は手に負えない。ブルーベリーは早い時期は育てるのに手間がかかっても育ってからは老人でもできそうに思えたこと。
 そんな話を長女にしたら、彼女も「夷隅で住みたい。」と賛成してくれた。私の心が決まったときだった。そしてその娘は沖縄で他界した。今私は一人で夷隅に来ている。

夫婦別居
 最近のテレビで「定年後を農村で暮らそうとする男性とそれについていかない奥方」を題材として面白おかしく見せてくれる番組が目につく。団塊の世代が定年になるからだそうだ。
 夫婦生活も40年もの長い間一緒に過ごし、子育ても終わり、それぞれが自分の楽しみや友人との付き合いを中心にした生活時間・空間をつくり始めると、よほど強い共通の趣味なり仕事なりをもたない限り常に一緒はわずらわしく感じるのが当たり前だと考える。まして男の方が仕事を失い、その輝きも薄れた濡れ落葉状態で、常に一緒にいようと努力なり要求をするのは明らかに双方の役割のバランスを欠いており、むしろ危険ともいえよう。仕事をとおした誇りや輝きを失ったのは男の方なのだから、積極的に新たな輝きを求めて動き出すべきなのはやはり男の方であると思う。そしてこれまでの仕事と同様に、たとえそれが遠隔の地であったとしても、新たなプロジェクトに魅力的な役割も与えず奥方を引っ張り込もうとするなんてことはまったく論外のことと思う。住まいは離れていても、夫婦であることに変わりは無い。子育て時代のサラリーマンの転勤とはわけが違うと思う。
 結婚して40年になる。その間に二度住まいを変える転勤をした。福岡と沖縄である。福岡は50代半ば家内と一緒に行った。九州中をドライブした。沖縄は家内は来なかった。理由は二つ。子育てが終わり、愛犬を飼い始めたこと。もちろん那覇にも犬の飼えるマンションはあったが、私自身も今の家のように自由に飼えるかどうか自信は無かった。もうひとつは、93歳だった私の母親を暖かい沖縄で暮らさせたかったこと。母は沖縄を満喫した。今も元気だ。そして私は夫婦別居の楽しみも覚えた。ときどき帰るわが家にはほっとするし愛犬も歓迎してくれる。

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